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好き!の強さが創る自分の人生|Farm Shida

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好き!の強さが創る自分の人生

Farm Shida
志田 光恵さん

新潟で在来種の米や大豆を育てる農業者。さといらずや亀の尾、旭といった品種の魅力に惹かれ、稲作と大豆栽培に取り組む。新潟大学農学部を卒業後、米農家での研修や酒造会社での酒米栽培を経て、2016年に独立し。幼少期からの慢性的なアレルギーを有機栽培の玄米菜食で克服した経験を持つ。

インタビュアー
株式会社いにしえイノベーティブコンセプター 新田 増穂

日本の衣食住、発酵文化をテーマとし日本各地に足を運び、その地の土壌、郷土料理などを学びながらレシピ開発、商品企画 及び飲食店、宿泊施設などの料理提案などを行なっている。

有機栽培米との出会いと慢性疾患の治癒がきっかけに

新潟県新潟市。涼しい風の抜ける初秋、田んぼの多い景色の中 今回やってきたのは、自然栽培の大豆とお米を作っておられるFarm Shidaさんです。農作業を終えた昼下がり、築百年を越えるご自宅で出迎えて下さったのは、園主の志田光恵さん。小柄で物腰も柔らかく穏やかな印象の志田さんからは、バリバリ農作業という光景はまだ全く想像できません。(笑)早速居間に上がらせて頂き、お話を伺っていきます。

さて、生活スタイルそのものが「農」ベースである現在の志田さんが、そもそも一番最初にこの世界に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

うっすら日に焼けた今の艶やかなお肌からはその面影すら感じさせませんが、意外にも志田さんは10代の頃、慢性的な皮膚炎やアレルギー性鼻炎が常だったそうで、丁度そんな高校生時代に偶然入った新潟の自然食品店で有機栽培の玄米と出会い、玄米菜食を始めました。すると次第に自身の幼少期からのトレードマークになっていたほどの疾患はすっかり治り、少しずつ「食」、「農」の作り手側に興味が向いていったのだとか。この時点ではまだ消費者側におられた志田さんは、食に関心を持ちつつも高校卒業後は一般企業に就職。ですがやはり農業に携わりたいという思いから、新潟大学農学部へ進学されました。ご卒業後は、在学中に出逢った有機玄米を作っている群馬県の浦部農園さんの下で1年間研修。その時の、作業を終えた後の生産物のお昼ご飯がそれはそれは美味しいこと。たくさん働いて、しっかりと恵みを頂く。この何にも勝る中毒性のある(笑)幸福感を、志田さんはここで知ったのでした。これが今の全ての原点。楽しい、幸せ、自分で農業をやりたい!と心が固まった大きなきっかけとなったのでした。

その後新潟に戻って一旦地元の酒蔵に就職し、酒米作りをしていました。そこで蔵人であったご主人様と出逢われ、志田さんはご主人様の実家で就農し、晴れて志田さん念願の農家人生は始まったのでした。

こうして道のりを聞くと、一番最初のご自身の疾患はただのきっかけに過ぎず、今やここまで農業に魅了されておられる志田さんですから、きっとどんな道でも結局は巡りに巡って現在の農業従事者に行き着いておられたのだろうなと思わずにはいられません。誰もが持つ“自分の好き”に突き進むエネルギーに、改めて感服です。

現在は薔薇を作っていた所も畑にし、義父、義母、義弟は畑を、志田さんは田んぼをお一人で担っており、休日には、今は別のお仕事のご主人様も助っ人でお手伝いに入って下さっています。

食卓には、自然栽培の米と仲間が作るお味噌

そんな、今年で晴れて10年目を迎えたFarm Shidaの日々の食生活は、今では自分で作った自然栽培のお米、そしてそのお米と大豆でたなか農園さん(※別記事)で仕込んでもらった米味噌が必ず食卓にあって、これさえあれば毎日丁寧に丁寧に料理に時間を割かなくても大丈夫だと安心できるそう。

近年、健康意識で様々な美容的観点のレシピや食事が世のトレンドを作っているわけですが、食事の基本であるこのシンプルで伝統的な食卓があれば私達日本人の健康には充分だと、私もいつも思います。四季折々、きちんとその時期の体に最適な栄養を旬の食材で取れて、一方では、志田さんの作る大豆やお米は日本の保存食としてはナンバーワン。今でこそ保存の観点で食材を選ぶ時代では無くなりつつありますが、昔はこんなことも、とても大切な生きる糧だったわけですね。収穫閑散期にも大きく貢献してくれていた食材に違いありません。季節に即した日本の食卓は、本当によく出来ています。

そんな日本古来からのシンプルで栄養満点な食生活を送っておられる志田さんが農家に嫁いできて特に思うのが、庭に植わっている梅や花梨で梅干を作ったり蜂蜜漬けにしたり…その時その時自分に必要なものが周りにあるという“日常の自然の恵み”の有り難さ。まさに医食同源です。

そうして、昔は当たり前だった周囲で全てが完結する暮らしは、私から見ればやはりどれを切り取ってもとても豊かで理に適っているように思います。それは子育ての観点でも同じ。大きい声を出したり沢山はしゃいでもいい、植物を採ってもいい。そんな都会では少し親がヒヤヒヤするような事でも、周囲の目を気にしなくて良いというのも子供が伸び伸び育つ素晴らしい環境だと志田さんは感じており、「農」「家族」「母親」といったようなライフワークバランスの観点でも一般のお仕事と違ってとても柔軟な時間の使い方ができるのが魅力だと言います。

「晴れた日は早く畑に行きたくて仕方ない」

「世のお母様に申し訳ない、自由奔放にやらせて頂いています」…そう柔らかい口調で話す志田さんのお言葉からは、むしろ不思議と芯のお強さ、そして、元々は田舎の農家育ちではなかったからこそこの日々の有り難み全てをしっかりと心で受け取り、感じ、周りに温かく見守ってもらえるほどきっと熱心に直向きに取り組まれて過ごしておられるのだろうなと感じました。

とはいえ、順風満帆ではない事も事実。例年、全国的な異常気象により気候が読めず、長年農業を営まれている周りの年配の先輩方さえもどんな風に対応したらいいか分からない、原因が分からないという事が起こっている中で、自然栽培である志田さんも同様に、根切虫に苗がかなりやられてしまうなどといった様々な要因によってここ2年不作が続き、毎年その結果を見てはまた来年に向けて試行錯誤をくり返す、といういう飽くなき戦い。

また、作っている大豆は特に収量が要る農作物になるので、今でこそ機械化が進んで沢山生産できるようにはなっているものの、Farm Shidaの方法は昔と変わらず一つ一つ選別、そこから汚れたものは磨き、乾燥させ…と収穫後も多くの手仕事がある中で、昔の人ははきっとそんな大量に個々が作っていたものではないのだろうとなぁと不意に感じながらも、そうした大変な作業もせっせと毎年楽しんで取り組まれております。「確かに作業量、収量や収益だけを見れば違う職種や違う農作物を選んでいたかもしれないけれど、田んぼや畑に行くと本当に体が気持ちよく、例えば二反三反にもなる面積の収穫前の草刈りであったり、周りの農家さんから大変そうに思われてしまう事さえも、作業ができる晴れの日は早く畑に行きたくて仕方がない。年間を通してその時期の課題を一つ一つクリアしていくのが楽しい!」そう話す志田さんの笑顔は本当にキラキラしていて、こちらまで心に温かい春風が吹いたような気持ちになるのでした。

「女性だから」を柔軟に捉える志田さん

こんなに自分の生業を心から幸せに感じてお仕事をできている人が一体世の中にどれくらいいるでしょうか。こうして志田さんとお話していると、日本が世界幸福度ランキングで下層にいることが懐疑的に思えてしまいます。日本中こんな人で溢れていたら、きっとそんなネガティブなデータベースも変わっていくでしょう。

また、志田さんがよく注目の観点にして頂くという“女性一人で農業”という事については、同業では紅一点で多少なりとも気を遣うこともありながら、時には女性だからと手助けしてもらったり見守って下さることはとても有り難いと思いつつも、ご本人としては“今やりたいことをただやらせて頂いているだけ”で、自分の性別を意識したことはなく、ただ人として常に自分はどう思うかなと物事を考えて選択してきただけというとてもシンプルで実直な考え。

近年“女性の自立”などといった言葉を表題として様々な媒体から目にすることで、今の風潮が女性が男性と等しく社会でメキメキと活躍できる流れになっている事、またそれを意識し、目指す女性が格段に増えていることが窺い知れますが、この度の私たち取材陣もそれと同様に「女性が一人で」という部分に先ず目が行ったことに何だかハッとするのでした。男女差別のない社会に向かっているのに、メディア側がまだその視点を持っているではないか、当のご本人たちは何もそれを強みにしていないのに。そう思うと、一般的に農業がまだまだ「力仕事一択」であると思われていて、自分もその一人だったのだと気が付くのでした。

そんな風に、志田さん自身はあまり性別で物事を見ていない部分。一方で、逆に男女それぞれの役割があるという風に感じることもあるそう。やはり農業の現場ではまだまだ男性ばかり、同時に地域の生産者さんたちの女性同士の繋がりがあって、そこでは様々な役立つ情報交換をしたりと、どちらとも混ざり合っている日々の中で、やはり女性は女性的な、男性は男性的な考え方があって、物事を見る視点が違うのだなぁと、その相互関係に日々感心しておられるのだとか。もちろんそれぞれが対立しているのではなく、補い合っていい形(生業、生活、暮らしなど)が出来ているご夫婦などを見ては、女性として誇らしいなと思うと同時に、実は男性ばかりではないこの農業の世界に、更にもっともっと女性が入って来てほしいと願っておられます。志田さんは、それが絶対農業のためであり、豊かになることだと、日々感じておられます。

農家としての喜び仲間と高め合う環境が楽しい

そんな志田さんがここまで魅了されている「農を営む暮らし」ですが、全ての原動力はやはり何を差し置いても自分の体が知ってしまった農作業の楽しさ。例えば作業している時の田んぼだったり、そこに息づく生き物だったり、作業でお腹が減ったらご飯を食べる。無数の生き物が息づく自然の中で、それら全てが自分の五感を満たしてくれて、やらずにはいられない!そう話す一方で、10年を迎えたとはいえ毎年常に技術力から見て規模を縮小すべきか否か、どんな風に栽培するか、どんな風に収量、収益を上げるか、といった「経営」という文字も、もちろん常に隣り合わせ。それでも志田さんが自然栽培をこの規模でやりたいという変わらない思いは、自分の心と体を満たすことというのはもちろん、そんな大好きなことで生産者として需要に応えること、自分が作ったものを食べて下さる方が増えていること、周りの人たちを養えるという農家としての喜びが全ての原動力。

また、人との関わり合いという意味でも、地域の皆で研究会で技術を高め合ったり、情報交換をして販売の部分も一緒に頑張ったり、自然栽培という一般栽培と違った部分で支え合う大切な“仲間”がいること。ただ“作る”という、きっと家庭菜園という規模でも十二分に味わえるはずの楽しさで留めてしまわずに、そうして周りの人と手を取り合いながら販売するというところまで出口を作っているからこそ、こうして好きなことを存分にできて、家族も応援してくれて、人にも喜んでもらえることが、志田さんの今を創っておられるのです。“自給自足”との違いを知ることが出来た、大切なお話でした。

幸福感に導かれて

そしてそんな志田さんから、最後にとても胸が熱くなるお話を伺いました。

いつも自身の未来を想像した時に、何故か自分が雲に乗って苗を植えている姿が浮かんでくる、というのです。それは、自身がこうして農業を通してずっと感じてきたこの得体の知れぬこの上ない幸福感を自分の中だけで留めず、ただ、田んぼに入りたい人が入り、作りたい人が作り、食べたい人が食べて…人それぞれが皆、自分たちのしたいことを表現できる世界であってほしい、という切なる思い。自分が僅かながらでも、そんな人たちの手助けになったり、手を差し伸べられて、人が生きていく上でとても大切な「食」を通した幸せが、沢山の人の人生に拡がっていくことをささやかに願うお姿を見て、私の中で志田さんが、日本神話に出てくる宇気母智命(うけもちのみこと)(※食の神様)のお使いの人なのかもしれない、と不思議と胸がじんと熱くなりました。

「食」とは栄養をただ口から摂るためだけのものではなないと改めて感じされられると同時に、志田さんの「農」を通した、好きな事で自分も周りも幸せに…と境目を作らずに分かち合おうと生きるお姿はきっと、農という世界に留まらず、人々が自分の生きたい道を存分に直向きに歩んだ先に見える行き着いた先の深い慈愛の姿なのだと、強く強く、心で感じた時間でした。

人がきっとそれぞれに、人のためにこの世に命を与えてもらっているということを、知ったような気がします。志田光恵さん、本当に有難うございました!

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