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9、自然栽培の変化と視点の広がり: 畑との向き合い方 【R6.9月インタビュー9/10回目】

 >こちらは、令和6年9月に慶應義塾大学院の林さんの研究の一環として受けたインタビューを文字起こししたものです。パターンランゲージという学問を使って、自然と調和する生活を送るためのヒント作りを調査研究されています。<

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林:

いや、面白いですね。最後に質問したいのですが、自然との関わり方や価値観において、何が一番変化したと感じますか?私も井形さんのようになりたいと思ったのは、やはり畑の見方が違うと感じたからです。今回は特に食を育むという視点でお話を聞いていますが、その「食を育む」という観点で畑を見る時、井形さんが見ているポイントが違うんですよね。

例えば、歩き方一つとっても、大股で歩く姿や視野の広さが、私が見ている世界よりも広い範囲を捉えているように感じました。何をしたらそうなれたのかというのが気になるのですが、それは徐々に培われたものだと思うので、明確に「これ」という答えは難しいかもしれません。でも、例えば昔はどういう風に畑を見ていたのか、その違いを知りたいです。例えば農業研修の時はどこを見ていたのか、自然栽培を始めた頃、木村先生の元に行く前はどうだったのか。そして、木村先生のところで学んだ後に、どこを見るようになったのか。さらには、自分の実践を進めていく中で、土地環境や育てている作物が違うこともあるので、その辺の違いも含めてどこを見るようになったのかを教えていただきたいです。

井形:

そうですね、果樹園に関わり始めた時からの話で言うと…

林:

果樹園というのは、研修の時の果樹園ですか?

井形:

そうです。研修の時は全く見方がわからなかったので、果樹園の方が見ているものをそのまま真似して見ていました。それは、例えば枝の先端の「樹勢」を見て、どのくらい強く成長しているか、木のどこに一番力が集中しているか、という基本的な見方でしたね。そして、下に草が生えているな、という程度の視点でした。

当時は自然栽培の考えに触れたばかりで、草が生えているのは良いことだという感覚しか持っていませんでしたし、除草している農家さんもいれば、草刈りをしている農家さんもいて、「除草するのは良くない、草刈りは良い」というくらいの単純な見方でした。さらに言えば、放置する方が良いという考えが強かったので、放置が良いことだと思い込んでいたんです。ただ、それが実際にどう影響するかまではわからなかったので、ただ見ているだけという状態でしたね。

木村先生のところに行った時に学んだのは、草の多様性が大事だということです。草がたくさん生えていれば良いわけではなく、それぞれの草が持つ栄養素や、それに寄ってくる虫が違うため、多様性が重要なんだと教わりました。さらに、同じ作業を繰り返さないとか、同じ場所を歩かないようにするといった細かな工夫が必要だということも学びました。なるほど、と思いましたね。

佐藤:  

なるほど。

井形:  

結局、固まったところには固まったところに出やすい草になってしまうので、あまり道は作らないほうがいいとか、そういうのもありましたし、作業性の問題もあるから、草刈りはするけれど、それは季節でやるのではなく、状態を見てやろうとか。雨が多くて湿気が溜まりやすいから少し早めに草刈りをしちゃおうとか、そういった見方がありましたね。多様性が最初は高くはなかったけれど、時系列でも変わってくるから、その辺を今どのくらいのレベルなんだろうとか、どの段階なのか、手をかけると来年どうなるのか、といったその変化をちょっとずつ見るようになってきました。

で、その後、現状に至っては、草を刈らないという手段にフォーカスしがちですが、それはやめようと思って。最終的にこうなってほしい、というビジョンがあるんです。やっぱり多様性があることが大事だし、草丈の高低もあってほしいし、季節ごとに常に何かしら花が咲いているような植生がいいなと思っているので、それに対して「これ今多すぎるから刈っちゃおう」と思って刈る。で、刈って出てきた空間に2、3週間後に何か草が出てくるだろう、って考える。そうすると、4月くらいから草が生えていたんだけど、10月くらいまでの間で何回かやれば、その季節のものが生えてくる。そうしていけば、来年や再来年には、あちこちでそれぞれのタイミングで花が咲くようになるんですよ。そうすると、訪花昆虫っていう花を目がけてくる昆虫も来るし、好きな虫も来るしっていう複雑さが出てきて、そこがいいなと思っています。今では、そこの物理的な多様性と時間的な多様性もボリュームアップしたいな、っていう見方をしています。それを急いで進めた場合に、何か偏りが出てきたら、ここはちょっと良くないなって見方もしています。いろんな草が満遍なく生えているかとか、高いところも低いところもあるかとか、そういったランダムな状況に対する満足感、良い雰囲気だな、と感じますね。

あとは、風が流れた時に、高い草はゆっくり倒れますよね。メトロノームのように。それが複雑にいろんな動きをしているのが良いなと思っています。

佐藤:  

えー。

井形:  

みんなが揺れたら綺麗なんですけど、それは私の中の複雑性にはなかったんですよ。高い草だとゆっくり倒れるし、小さい草だとすぐ倒れる。草の中でいろんなリズムがあって、その複雑性が快感として感じられるというか、良い畑になっているんだなぁと思うんです。風が流れた時の草の動きが心地良いかどうかっていうのは、結構私の中では大事な要素なんです。あとは、鳥が飛んでいけるかとか、虫がどれくらいいるか。虫は種類が豊富であってほしいけれど、数は少なくて良いと思っています。だから、パッと土を見た時にいろんな虫がいて、いろんな種類が見つけられるっていうのが大事かなって考えています。

佐藤:  

果樹園の栽培とかではなくて、生態系を作って、それぞれの居場所を作るっていう感覚になってきましたね。

井形:  

そうそう、だから自然栽培と言っていますが、「生態適合農業」っていう言い方をしています。生き物が生息しやすい環境で私たちは農業をやっている、という考え方です。

林:  

例えば、さっき話に出ていた循環っていうのはないかもしれないけど、複雑なネットワークの一部っていう感覚もきっと変わってきたんでしょうね。生きること自体にまで入り込んでいるような感じがします。畑をしている人は、農業的なものだと「自分が食べるために育てる」とか、「誰かのために育てる」という感覚が強いですけど、井形さんは「自然と生きる」「土と生きる」という言葉がピッタリだなと感じます。なんか、そういう生き方が本当に自然に根付いているように見えます。

佐藤:  

私も、そっちが強い気がします。

林:  

なんか、そういうところの変化がもしあれば教えてください。

井形:  

東京にいた頃とかは、実践もしていなくて、聞いた話で「ここなんだ、こうなんだ」と話をして、農家さんはみんな「畑が気持ち良い」と言っていて、確かにそうだなって何となく思っていました。それがだんだんと、なんだろう、作物を美味しくするのは人の影響も大きいんですよ。人が怒っていると、作物もまずくなるから、気持ち良くしてから畑に入るべきだ、というのがあって……そんな感じで話をしていたんです。で、やっぱりそれも見たら、言うわけですよ。「自然栽培も気持ち良く入らないとダメですよ」って。だけど、実際に自分がやってみたときに思ったのは、畑が本当に自然に近づいてくると、畑がこちらを気持ち良くしてくれるんです。そうすると、気持ち良く作業ができるから、私たちが出すものも気持ち良いものになって、それが作物の美味しさに繋がる。だから、私たちが「こうしなきゃいけない」じゃなくて、自然って、それくらい私たちに親和性があって、その一部だと感じると本当に心地よくなるんです。

自然に返してあげることで、自分が気持ち良くなり、その気持ち良い気持ちを作物に反映させると、美味しくなる。私たちが何かをしなきゃいけないわけではなく、自然はそれほどの力と包容力があって、良いバイオリズムがある。そこに浸ることができるから、私たちは本当にその恩恵を受け取っているんだな、という方が大きいと思うんです。

不自然になってしまったものを直すのは、私たちがやらなきゃいけない仕事ですが、畑が良くなってくると、休憩時間が本当に気持ち良くなる。だから、人工的に何かをしなきゃいけないという世界ではなく、自然の中でいただけるものだから、畑を良くすることだけを考えればいいんじゃないかと思うようになりましたね。だから、「こうしなきゃいけない」っていう人工的な考え方よりも、受け取ることの方が圧倒的に大きいと思うようになりました。

佐藤:  

自然農法になれば、基本的に作業時間はかなり削減されるということなんですかね?

井形:  

いや、それは作物によって全然違いますね。うちはブドウを作っているんですが、ワイン用にするのと生食用にするのとでは、作業量が全く違うので、一概には言えません。ただ、農業者としては、作業時間を短くして、より良い質を出すために、工夫をしなければならないです。だから、一概に「こうだから」と言えるものはほとんどないですね。熟練度によってもだいぶ違うと思います。

林:  

ありがとうございました。

佐藤:  

(いにしえの冊子を見ながら)これは、井形さんがずっと考えてこられたものなんですか?

井形:  

私は、生き物に関係する畑のことを多く考えて、同時に「食で健康にしたい」と話していました。会社立ち上げの際にも、方向性は「これだよね」と、何度も話し合いをしながら、言葉にして記録してきたものをまとめたのがこれですね。

佐藤:  

洗練されていますね。

井形:  

繰り返しやってきたので、ようやくここまで来たんです。でも、じゃあ、それをどうやって商品に表すのか、というのを今考えているところです。ここまで考えてきたけれど、まだすごく未熟な商品しかないので、もっともっとやらなきゃいけないな、というのを今考えています。

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この記事を書いたのは

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代表取締役
井形 誠
2007年ころから、「あらゆる生き物と共存する農業の仕組みを作る」と自分の方針を固め、自然栽培の農業研修を受け、自然栽培食品店の責任者をし、自然栽培の果樹園を拓きました。 農業に転職する時、「販売の得意な農家になれば、後発農家も優位に立てる」と考えてマーケティングを勉強し、それを活かして「やればやるほどに自然が豊かになる農業」に取り組んでいます。 『薬に代わる食』『人と地球の健康を改善する』『いのちを大切にする文化を育てる』そんなテーマに共感できる方々を前進していきたいと考えています。

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