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2、自然との関わりに気づくきっかけと人生の変化【R6.9インタビュー2/10回目】

 >こちらは、令和6年8月に慶應義塾大学院の林さんの研究の一環として受けたインタビューを文字起こししたものです。<

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林:

その複雑なネットワークの考え方は、自然に出てくるものではないと思います。現代の社会では分断されている部分が多い中で、井形さんはどのようなきっかけで、そのネットワークや循環の大切さに気づかれたのでしょうか?

井形:

自然に対して良いなと思う感覚や、自然に近づきたいという感情は、多分小学校やその前くらいから持っていたと思います。家族でキャンプに行くことが多く、山や湖畔でのキャンプが特に楽しかったですね。自然に触れることで「気持ちいいな」「この感覚は何だろう」と感じることが多かったです。そうした体験が、自然に対する関心や近づきたいという気持ちのスタートだったと思います。そして、明確に自分の考え方が形作られたのは、社会人になって25、6歳の時に野生動物の保護活動に関わるようになったことがきっかけです。その時は、単に動物を大切にしたいという気持ちで関わっていましたが、活動を通じて「なぜ動物が邪魔者扱いされるのか」という疑問が生まれました。その時に、「人間は自然の一部であり、複雑な関係性の中で共存している存在である」という考え方に触れ、それが自分のベースになっていきました。

もう1つのきっかけは、大学生の頃です。寮生活で暇な時間があった時に、父親に相談しておすすめの本をもらいました。その時にもらった2冊の本が、今でも自分の指針となっています。1つが『マスターからのメッセージ』、もう1つが『ミュータント・メッセージ』という本です。特に『ミュータント・メッセージ』は、自然に対する価値観を形作るきっかけになりました。この本は、オーストラリアのアボリジニーの方々と旅をした女性の話で、彼らが毎朝起きてから自然や生き物に感謝を捧げるという姿勢に感銘を受けました。彼らが、命をいただくことに感謝しながら旅を続けていくという考え方が、自分にとって大事な死生観や食べ物との関わり方に深く影響を与えました。

林:

感謝して命をいただくという考え方はとても大切なことだと思います。でも、それに気づくタイミングは人それぞれですよね。大学時代にその本が響いた理由や、もしもっと早くに読んでいたらどう感じていたかについて、何か背景があれば教えてください。

井形:

そうですね、その本は今でも定期的に読み返しています。オーディオブックにして繰り返し聞くこともあります。大学生の頃は「不思議な話だな」「こういう生き方もあるんだな」と漠然と捉えていましたが、何度も読み返すうちに理解が深まりました。当時はショックを受けた部分もありましたが、何度も読むことで、命の大切さや食べ物との関わり方がしっかりと心に刻まれた感じです。

林:

その体験が、25歳で野生動物の保護活動に関わる選択に繋がったんですね?

井形:

そうだと思います。幼い頃から金魚やインコ、犬などを飼っていて、生き物と接する機会が多かったんです。それらの命に対して責任を感じ、最期まで世話をする覚悟がありました。その経験が、野生動物の保護活動や自然への関心に繋がったのかもしれません。こうして1つ1つの体験が積み重なって、今の自分の価値観を形成しているのだと思います。

林:

なるほど。

佐藤:

自然への感謝や「いただきます」の意味についてお伺いしたいです。昔はそれが普通に行われていたと思いますが、現代では自然への感謝が薄れているように感じます。井形さんにとって、自然への感謝がどうして大事だと思われるのでしょうか?

井形:

お恥ずかしい話ですが、自分の中で感謝というものを深く理解し始めたのは、30歳を過ぎてからなんです。そういった本を読んでいくうちに、感謝しながら生きることは良いことだと感じていましたが、それはあくまで他人事のように思っていました。でも、実際に自分の会社を立ち上げて、自分の力で生きていかなければならない時に、人との関係性の中で本当にありがたいと思う瞬間が増えてきました。物を売っている時、お客さんが来なくて辛かった時に来てくださった方がいた時、本当に嬉しかったんです。それまでは感謝というのは自然に湧き出てくるものだと思っていましたが、だんだん自分から意識して感謝を探すことができるんだな、と気づくようになりました。

その頃から食に関わるようになり、「こういうことをやっていこう」と決心しました。食べ物が生き物からできていること、自分たちが地球上で生かされていること、人間も多様な生命の一部であり、今の環境があるのは奇跡的なことなんだと考えるようになりました。地表はまるで生命維持装置のようなものだと思い、そのありがたさに気づくようになったんです。

自分が動物に食べられる危険性を感じたことはありませんが、食べられる生き物も恐怖を感じているのかもしれません。命が終わること、人生が終わることを考えた時、食べる相手の人生はそこで終わり、私たちに命を繋いでくれている。そのことを考えると、本当にありがたいことなんだな、と感じます。考えるたびにその感謝の気持ちが深まっていくんです。最初は言葉だけで中身がなかったかもしれませんが、1つ1つ深く考えることで感謝というものを実体験として感じられるようになりました。

林:

なるほど。その感覚として、まず大学で『ミュータント・メッセージ』という本を読み、25歳で野生動物の保護活動に関わるようになったんですね。『ミュータント・メッセージ』を読んだことが就職活動に影響を与えたりはしませんでしたか?

井形:

就職活動は、一瞬だけした記憶がありますが、その頃はまだ野球を本気でやっていたので、そちらに集中していました。良い方々に恵まれて野球を続けていたので、そのノウハウを人に伝えたいなという思いもありました。大学でプレイヤーとしての役割は終わりましたが、何か関わりたいと思って模索したのが、国際協力という形でした。途上国に野球を普及させて、スポーツを通じて国の活気を作りたいと考えたんです。それで一瞬就職活動も考えましたが、いくつか受けても全て不合格だったので、そこからは深く考えずに就職しました。そこで一度、自分の哲学や大切なことを仕事に活かそうという意識は途切れてしまいましたね。

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この記事を書いたのは

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代表取締役
井形 誠
2007年ころから、「あらゆる生き物と共存する農業の仕組みを作る」と自分の方針を固め、自然栽培の農業研修を受け、自然栽培食品店の責任者をし、自然栽培の果樹園を拓きました。 農業に転職する時、「販売の得意な農家になれば、後発農家も優位に立てる」と考えてマーケティングを勉強し、それを活かして「やればやるほどに自然が豊かになる農業」に取り組んでいます。 『薬に代わる食』『人と地球の健康を改善する』『いのちを大切にする文化を育てる』そんなテーマに共感できる方々を前進していきたいと考えています。

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